準委任契約に「契約不適合責任」はない?フリーランス・企業が知るべき実務リスクと対策を行政書士が解説
- fg-all
- 6月5日
- 読了時間: 8分
業務委託契約を結ぶ際、「準委任契約」と「請負契約」のどちらを選ぶかによって、負うべき責任の範囲が大きく変わることをご存知でしょうか?特に、成果物の品質に関する責任、すなわち**「契約不適合責任」**が、準委任契約には原則として発生しないという点は、フリーランスにとっても企業にとっても非常に重要なポイントです。
しかし、「契約不適合責任がないから安心」と安易に考えていると、思わぬトラブルに巻き込まれる実務上のリスクも存在します。「成果が出なかったのに報酬を請求された」「期待通りのサービスを受けられなかった」といった認識の齟齬は、多くの契約トラブルの根源です。
【ブルーナ行政書士】は、数多くの業務委託契約の作成・チェックを通じて、この「契約不適合責任」に関する疑問やトラブルに直面してきました。この記事では、準委任契約に契約不適合責任が適用されない理由を明確にし、その代わりにどのような責任が生じるのか、そして実務においてフリーランス・企業がそれぞれどのようなリスクを負い、どう対策すべきかを、専門家である行政書士が徹底的に解説します。契約の法的性質を正しく理解し、あなたのビジネスをリスクから守りましょう。
基礎知識:準委任契約に「契約不適合責任」が適用されない理由
まずは、準委任契約と請負契約の根本的な違いから、「契約不適合責任」が準委任契約に適用されない理由を掘り下げていきます。
「契約不適合責任」とは何か?
契約不適合責任とは、民法改正(2020年4月1日施行)によって「瑕疵担保責任」に代わって導入された概念です。これは、売買契約や請負契約において、引き渡された目的物(成果物)や仕事の完成が、契約の内容に適合しない場合に、売主や請負人(受託者)が負う責任のことを指します。
具体的には、不適合があった場合、買主や注文者(委託者)は、以下の権利を行使できます。
追完請求権(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)
代金減額請求権
損害賠償請求権
契約解除権
この責任は、「完成した成果物」の品質や性能が、契約で定めた内容と異なっているかどうかに焦点を当てます。
準委任契約に「契約不適合責任」がない理由
準委任契約に契約不適合責任が適用されない理由は、両者の**「契約の目的」**が根本的に異なるからです。
請負契約の目的は「仕事の完成(成果物の引渡し)」:
Webサイトの制作、システムの開発、建物の建築など、請負契約では「具体的な成果物を完成させて、それを相手に引き渡すこと」が義務と報酬発生の条件となります。
そのため、引き渡された成果物が契約内容と異なっていれば、その不適合に対して責任を負うのが当然、という考え方になります。
準委任契約の目的は「業務の遂行(行為)」:
これに対し、準委任契約の目的は、「特定の業務をすること自体」「サービスを提供すること自体」にあります。コンサルティング、市場調査、システムの保守・運用、講師業などがこれに該当します。
準委任契約では、成果物の完成を約束するものではありません。例えば、コンサルティングの結果として売上が上がらなかったとしても、コンサルタントが契約通りに誠実に助言業務を遂行していれば、それが「契約不適合」となるわけではありません。
したがって、成果物が存在しない、または成果物の完成が目的ではない契約形態であるため、その「成果物」の不適合を問う「契約不適合責任」は適用されないのです。
準委任契約で負う責任は「善管注意義務」
では、準委任契約で受託者(フリーランスや専門家)は全く責任を負わないのでしょうか?そうではありません。準委任契約では、**「善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)」**を負います。
善管注意義務とは: 受託者は、その専門性や職業倫理に基づき、社会通念上要求される程度の注意を払って業務を遂行する義務です。
具体例: コンサルタントであれば、専門家として当然払うべき調査や分析を行い、適切な情報を提供すること。システム保守であれば、システムの安定稼働のために通常行われるべき監視やトラブル対応を怠らないこと、などです。
違反した場合: もし、受託者がこの善管注意義務を怠り、その結果として委託者に損害を与えた場合には、債務不履行責任として損害賠償義務を負う可能性があります。例えば、情報漏洩を防ぐための適切な措置を怠った場合や、明らかな過失によって業務を誤った場合などです。
このように、準委任契約では「成果の不適合」ではなく**「業務遂行過程における過失」**が責任の焦点となります。
実務リスク:準委任契約の誤解が招くトラブルと対策
準委任契約に契約不適合責任がないからといって、トラブルが発生しないわけではありません。むしろ、この違いの理解不足が、実務上の大きなリスクとなり得ます。
リスク1:報酬に関する認識の齟齬(特に委託者側)
【問題点】 委託者側が、準委任契約であるにもかかわらず、請負契約と同様に「特定の成果」や「明確な結果」を期待してしまうケースです。「売上アップ」や「システム稼働」といった結果が出なかった場合、「なぜ報酬を払う必要があるのか」と主張し、報酬支払いを拒否するトラブルに発展しがちです。
【対策】
契約時に「目的」を明確にする:
委託者: 業務の「遂行」に報酬を支払うことを明確に認識し、契約書に「本契約は準委任契約であり、成果の完成を保証するものではない」旨を盛り込む。
受託者: 契約締結前に、業務の目的が「成果物の完成」ではなく「業務の遂行」であることを丁寧に説明し、認識のすり合わせを行う。契約書には、業務内容と報酬の発生条件を、「業務遂行」に紐付けて具体的に記載する。
報告義務の明確化: 業務の進捗状況や行った作業内容を定期的に報告する義務を定め、客観的に業務遂行の事実を示せるようにする。
リスク2:業務範囲の曖昧さによる追加業務・過剰な期待(特に受託者側)
【問題点】 準委任契約では、業務内容が抽象的に記載されていると、「この業務も含まれるはず」「なぜここまでやってくれないのか」といった追加業務の要求や過剰な期待が生じやすくなります。これにより、受託者(フリーランスなど)は報酬に見合わない作業を強いられたり、疲弊したりするリスクがあります。
【対策】
委託業務の内容を「具体的に」定義する:
「月〇時間の作業に限定する」「〇〇に関するレポートを月〇回作成する」「対応可能な問い合わせの種類と時間」など、具体的な作業内容、量、頻度を詳細に明記する。
契約範囲外の業務が発生した場合は、追加報酬や別途契約の対象となる旨を明記する。
「含めない業務」も明確にする: 「ただし、〇〇(例:特定の資料作成、デザイン業務など)は本件業務に含まない」と明記することで、期待値のズレを防ぐ。
リスク3:情報漏洩や過失による損害賠償(双方のリスク)
【問題点】 準委任契約でも、受託者が善管注意義務を怠り、情報漏洩や明らかな過失によって委託者に損害を与えた場合は、債務不履行責任(損害賠償責任)が発生します。しかし、賠償の範囲や上限が不明確だと、いざという時に紛争が複雑化します。
【対策】
損害賠償条項の適切な設定:
賠償の上限額: 「月額報酬の〇ヶ月分まで」や「契約総額の〇%まで」といった上限を設定する。
賠償の範囲: 「直接損害に限定し、逸失利益や間接損害は含まない」など、賠償の対象となる損害の範囲を明確にする。
免責事項: 天災地変などの不可抗力による免責条項を盛り込む。
秘密保持義務の明確化: 取り扱う情報の範囲、利用目的、保管方法、違反時の罰則などを詳細に定める。個人情報を取り扱う場合は、個人情報保護法に則った取り決めも不可欠です。
リスク4:中途解除時のトラブル(特に受託者側)
【問題点】 準委任契約は、原則として双方からいつでも解除できるとされています(民法651条1項)。しかし、委託者から一方的に解除された場合、受託者(フリーランスなど)は次の仕事を探すまでの期間の収入が途絶えるリスクがあります。
【対策】
解除条件と通知期間の明確化:
「〇ヶ月前までに書面で通知することにより解除できる」といった解除予告期間を定める。
「相手方の責めに帰すべき事由によらない解除の場合、〇ヶ月分の報酬を支払う」といった補償条項を盛り込む。
報酬の精算方法: 契約が途中で終了した場合の、既に行った業務に対する報酬の精算方法を明確に定める。
まとめ:準委任契約のリスクを理解し、賢く対応する
準委任契約に「契約不適合責任」が適用されないという事実は、特にフリーランスや専門家にとっては重要なポイントですが、それが**「一切の責任がない」ことを意味するわけではありません。** その代わり、業務遂行過程における**「善管注意義務」**を怠れば、債務不履行として損害賠償責任を負う可能性があります。
また、契約不適合責任がないからこそ、業務内容、報酬の発生条件、責任の範囲、解除条件などを契約書で極めて具体的に定めることが、トラブルを未然に防ぎ、双方にとって健全なビジネス関係を築くための鍵となります。
【ブルーナ行政書士】は、準委任契約における実務上のリスクを深く理解し、フリーランスの方々や企業が安心して業務委託契約を締結・運用できるよう、具体的なアドバイスとサポートを提供しています。
契約書の作成やリーガルチェック、トラブル時の対応策についてご不明な点や不安があれば、どうぞお一人で悩まずに、私たちブルーナ行政書士にご相談ください。あなたのビジネスを法的な側面から全力で守り、成功へと導くために、私たちが最適な解決策をご提案します。
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